0326 21:30
仕事が終わり、一日振りに実験室に赴く。
いつまでも考え込むのは性に合わない。親父だけで充分だ。
職場からそう遠くない場所にある、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれた小さな小屋。
そこがいつも俺が使っている実験室だ。
パスワード制のセキリュティを解除する。いつも通りだが、何か嫌な予感がした。
扉が開かれる。
そこはいつも通りでは無かった。
「何だこれは……」
素早く室内を見回し、現状を理解するのに必死だった。
無い、無い無い無い無い無い無い―――!!!
今まで使ってきた試験体のデータファイルが、実験データを記録したメモリが、バックアップ用のハードディスクが―――
それら全てが無い、何も無い。
部屋にある棚と言う棚を漁っても何一つそこには無かった。
何故だ。誰が一体、何の真似だ。
隠せない苛立ちで壁に拳を叩きつける。
不意に、休憩用のベッドがある部屋の扉に目が行った。そこには一枚のカードが刺さっていた。
『今日の格言:目には目を、怒りには怒りを。なんてね』
その一文すら受け流す余裕は無く、破り捨ててやろうかとも思ったが下の方に追伸、と書かれている事に気づき考えを改めた。
そこに書かれていたのは時間と場所の指定だった。
この時間に其処に来いと言う事なのだろうか。
「馬鹿が……」
そう言いながら紙をグシャリと握り潰した。