【囚人ナンバー 150】
ある国の軍と政府が、自国の武力を確固たるものとするべくしてとある軍事的計画を開始した。
それは、空間そのものを司るまるで神の如き力を持った生物兵器を生みだすというものである。
まず彼らは能力の源を生みだす研究から始めた。
何年も掛けて理論を組み立て、何年も掛けて実験を行いそして完成したその力を凝縮させ、二つの宝玉に変えた。
源が完成した次は使い手をの問題である。この能力を完全に操る事が出来るほどの人物でなければならない。
兵器として扱うならば精神操作のしやすい子供が最適だという結論に至った。
そして計画は人体実験へとステップを進めた。
そしてその実験のために多くの孤児が、街から孤児院から病院からと連れてこられては実験台へと上っていった。
だが、宝玉の持つ力に、その強すぎる力によって人体へかかる負担に耐えきれずに何十人もの子供たちが命を落としていった。
計画が歩みを止めてしまった。理論は完璧なのにと、実験に参加していた技術者たちは皆一様にして頭を抱えた。
そんなある日、研究所に一人の白装束の男が現れた。
部外者である事は確実であったはずなのにも関わらず、技術者たちは彼の言った一言に耳を傾けた。
「出来上がっている器を使ってダメなら、器そのものを作ってしまえば良いじゃないか」
すると技術者の一人が声を上げた。
「確かに一度はそれを考えた。だが、ちゃんと機能する人体を生みだすのは容易なことではない」
その言葉を聞いた白の男はニンマリとした笑みを浮かべて答えた。
「ならば、私の力をお貸ししよう」
そして白の男は技術者たちへ人造人間の作り方を教えた。そして、そう長い時間を掛けぬ間に一人の人造人間が生まれた。
視力聴力会話能力、五体満足で筋力や身体の内部や知能に至るまでが完璧に作り上げられていた。
彼に対して早速能力を施す実験を行ったところ、この長年の研究において漸く、初めて適応反応が現れた。
実験を重ねていくにつれて能力は彼の身体に馴染み、いつしかその力は完全に彼の物になっていた。
だがしかし、それと並行して彼の中に人格が生まれた。
過酷な実験、研究者たちの狂気、それに伴う異様な雰囲気。それらに影響された人格は酷く粗暴なものへと形成されていった。
ある日、厳重に監視・警備の元で収容されていた部屋から脱走した。
研究所から脱走したことで彼は自由となりその毎日は大きく変わった。
拘束される事はなく、何の制限も掛けられず、好きな時に好きな事を出来るようになった。
しかし一つだけ、たった一つだけ、彼が独りきりである事だけは変わらなかった。
いつしか彼は研究所から遠く離れた街に辿り着いた。
人ならざる彼を見た地元のギャングや不良達は挙って彼に襲いかかったがその度に力でねじ伏せてきた。
次第にその者たちが連なりいつしか1つの組織が作り上がっていた。彼は独りきりではなくなった。
配下の者たちと暴虐の限りを尽くしてた。殴り、金品を奪い、時には命さえも奪った。
そうして行くうちに、彼は一人の男と出会った。彼の考えを理解し、時には作戦を提案する信頼しあう仲になった。
荒々しい日常を送ってる最中、彼は一人の女と出会った。
場末の酒場で給仕として働く彼女は廃れた雰囲気に合わず綺麗で、暴君で人ならざる彼にも優しい女だった。
その優しさは彼にとって酷く甘ったるいものであったが、しかし遠ざかろうとは思わなかった。
そんなある日、組織に属する者の殆どが一斉に逮捕された。
彼はその手を免れる事が出来た。逃げ込んだ先で、この出来事が男の手引きによるものだと知った。
信頼を裏切られた怒りで彼は男を殺した。見るも無惨な姿へと変えた。
その場には、彼女がいた。だが今まで見せていたは壊されていた。
柔らかかった身体は傷だらけで、何も映さない瞳になっていた。彼女は小さく呟いた。
「ねえ、はやくーー」
動くモノは彼だけとなった。再び独りになった彼の元へ大勢の軍人が雪崩れ込んできた。
応戦に応戦を重ね、何十人も殺したがキリはなく、独りきりの暴君は遂に捕らえられた。
捕らえられ拘束された彼が連れ出されたのは厳粛な様相の裁判所。
彼を弁護する弁護士などいる訳もなく、検事が、証人が、傍聴席が、口々に皆が叫んだ。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「そんな化け物さっさと殺してしまえ!!」
誰もが彼を死あるのみと叫んだ。
しかし、彼という存在はそもそも軍と政府が国のためにと生み出した兵器。
彼を生み出す協力をした謎の白い男はもういない。殺してしまってはもう二つとして同じ物は生み出せない。
だからと言って野放ししては、多くの犠牲を払ってまで捕らえた意味が無い。
なかなか判決が出ない中、突然木槌の音が鳴り響き、それまで沈黙していた裁判長が漸く口を開いた。
「被告に質問する。これまでに犯してきた罪を覚えているか?」
彼はその場にいた者全員に聞こえるように、化け物と蔑んだ者たち全員にその人ならざる力を見せつけるように、
自身は化け物であると教示するかのように、噛まされていた猿轡を外す事なくこの場にいる者全員の頭の中へと直接届けるように答えた。
「覚えてる必要が何処にあんだよ馬ー鹿」
彼の言葉を聞き届けた裁判長は再び木槌を振り下ろし、反響音と共に告げた。
「被告を終身刑とする」
その判決後間もなく、彼はとある刑務所の最深部へと収監された。
そこで能力を奪われ、視覚を奪われ、聴覚を奪われ、言葉を奪われ、そして必要最低限以下の行動すらも奪われた。
そして彼に、失った名前の代わりに新たな名前が焼き付けられた。
人造人間何とかさんが150さんになるまでのお話。