・ダブルバトルして負傷して撤退してました。
――此処は、何処だ?
気が付いた時、そこは真っ暗な闇の中だった。
前後も上下も分からず、目を開けているのか閉じているのかも分からず、何の音も聞こえない、そんな闇の中にヨギはいた。
――俺は、確か……そう、シンオウのやつらと……。
記憶の中でも一番最後の、はっきりしている部分に居る白と青の青年2人。
ホウエンにやってきた彼らと戦っていたのだ。ヨギ一人ではなく、もう一人ホウエンの民が居た。
――そういえばナムロスの旦那は…いや、旦那なら平気か。もし心配するなら向こうの2人だ。
例え2人掛かりになったとしてもあの竜を止めるのは一苦労するであろう。
そんな相手と共に戦っていたのだ。自分の実力だって理解していた。負けるつもりは無かった。
だが現実としてヨギはその戦闘中に放たれた攻撃を受けて意識を失ったのだ。正直、誰の攻撃を受けたのかもよく思い出せない。
打ち所が悪かったのかどうかは知らないが我ながら情けない。そう思っていると不意にヨギの周りを包んでいた闇が少しずつ和らいできた。
視界が晴れてくる。警戒してはいたが何てことはなかった。此処はよく見知った、霊魂達の行き交う空間だった。
――で、此処って事はつまり……あー、もういい。ハイハイお察しお察し。
この空間の一点、黒い煙で出来た蛇のような物たちが浮遊している事に気付いた時、ヨギは心の底からうんざりした。
生前の怨恨だけを抱き、精霊にも成れなければ次の生を目指す事も出来ない、霊魂の残りカスのようなモノ達――死霊が大量に蠢きながら此方を凝視していた。
霊魂の類は様々な姿形をしているが、ヨギが一番相手にしたくないのがこれだ。見ただけで
ヨギの意識が自分たちに向いている事に気付くと、口々に言葉を発し始めた。
スコールの向こう側から聞こえてくるような、ザリザリとしたその声がヨギは何よりも不快でならないのだ。
――『応報だ』『己が罪の報いだ』
――『悔め 悔め』『己が過去の呪いだ 報復だ』
――『喰らってやる』『お前が我等にしたように』『喰らい尽くしてやる』
――『呪い尽くしてやる』『己が呪いを恨み潰えろ』
蛇のような黒い体が呪詛のような言葉を吐きながら、好き好きにヨギの肢体へ巻き付いてくる。
獣のように毛が有る訳でもなければ、蛇のように滑りがあるわけでは無い。ただただ、不愉快極まりないのだ。
――あー。だからコイツら相手にすんのヤなんだよ。
見かける度に延々とこんな言葉を浴びせられるのだ。相手をさせられる方の身にもなってほしいものである。
目をそっと閉じ、ヤレヤレと溜息を吐きたいのをグッと堪えた。
『失せろ』
言われたい放題は趣味ではないと、何の感情も宿さない眼で睨み付けてたった一言告げる。
その霊たちの体は次々にパァンと破裂し、霧散していった。
巻き付いてきたモノも周囲を漂っていたモノも消滅し、ヨギ以外が何者も居ない空間になった事を確認すると今度こそ深い溜息を吐いた。
――ったく…喰えるもんなら喰ってみやがれ、ってんだ。
不快感の次に湧いたのは嘲弄の念である。ろくに廻ろうともせず怨み言を吐くだけの霊が何の世迷言を言うかと思えば、幼子の啖呵切よりも稚拙でしかなった。
そんな事を考えていると、周りの空間が歪みながら白み始めてきた。どうやら目覚めの時らしい。
漸く落ち着ける、そう思ったその時眼前に消えた筈の死霊が現れていた。
しくじった、油断したと気付いた時にはもう遅かった。死霊の一つ目がニタリと笑みの形に歪む。
『喰らってやるぞ、ーーー!!』
煙のようなその身体がヨギの頭部を突き抜けて消えていく。
その衝撃で吹き飛ばされるように、仰け反ったヨギの目の前は真っ白になった。
****
ハッとしたように目が覚めた。
手をついて起き上がると、敷き布越しに伝わる感覚から今、自分が自身の寝床にいる事が分かった。
身体の倦怠感とはまた別に、眼の周りがジリジリと痛む。それに頭も何か靄が掛かったようにボンヤリとする。
どうやら
眠っていた間に結い紐が解かれていたらしく、背や肩に髪が掛かるのが分かった。
それにしても何故こんなにも真っ暗なのだ。
今は夜なのか?それに外からは嵐の様な音も聞こえてくる。嵐が近付いている気配は無かった筈だ。
「ア、ヨギ!ヨギ、オハヨー!!」
足の間にピョンと飛び込んできた、幼い声の持ち主はキータだ。今日も今日とて、丁度いい柔らかさを持った毛をしている。
おう、と返事しながら彼の頭をワシャワシャと撫でまわす。キータが楽しそうにコロコロと転がっているのが分かる。
「モウ~、ヨギッテバ寝過ギ!二日モ寝テタンダヨ?」
「二日ぁ?」
二日も寝てたと言う、キータの言葉に思わず聞き返してしまった。と言う事はもうシンオウとの争いは終結しているのだろうか?
「そっか……そういやキータ。今って夜か?」
「エ?夜ジャナクテ朝ダヨ?」
「そっか……成程なぁ」
変なヨギと、クスクス笑う声に一言だけ返事を返す。キータの言葉で、自分の身に今何が起きているのか理解し始めた。
「ヨギ!!」
外から帰ってきたシッカーが起き上がったヨギを見て驚嘆の声を上げた。
「アア!アア、良カッタ!一体何ガアッタノ?何処カ痛ム所ハ?オカシイ所ハ?」
起き抜けの頭に矢継ぎ早の質問をされては思わず圧倒されてしまう。パタパタとヨギの忙しなく飛び回る相棒が落ち着くのを待つ。
「まあ、おかしい所があるかと言われるとそうだな……」
きっとこの心配性の世話焼きはひっくり返る程に驚くかもしれないな。そんな呑気な事を頭に過ぎらせながら、少し間を空けて言葉を続けた。
それはそれで反応が楽しみだ。思わず顔もニヤリとした表情になってくる。
「―― 俺な、目ぇ潰れたっぽいわ」
・andha:盲目の
・潰れたと言っても眼球はありますヨガ。
・これからはヨガレーダー1本で行くヨガ。
・失明の原因はヨギの記憶がはっきりしない限り、何とも言えないです。実は。
◎思い出したりしてました:ナムロスさん(@kaineさん)・ペドラダルアさん(@来宮さん)・アルバートさん(@琉花さん)