【 ā-pat 】
鬱蒼とした密林において、頭上を照りつける太陽の陽射しは柔らかい木陰になる。そんな中をヨギとシッカーは進んでいた。
特に行く当てがあるわけではないが、ザクザクと草を踏み分ける音を隠す事もなく歩き慣れた道を進んでいた。
この歩行音は色々なモノを引き寄せる。可愛いモノではヨギの姿を見て襲いかかってきたトージョウ民。少々厄介なモノでこの一帯に群生する肉食性の動植物たち等々。
「つっまんねえなあ~」
先程倒したトージョウ民が落としていった鞘で肩を叩きながら、予想外な面白味の無さに思わずハーッと溜息が出る。
手合わせと言うのであればもっと骨のある者と当たりたいところであるが、出会った者達は今一つ面白味に欠けていた。
「戦ウ必要ガ無イナラ、無理二戦ウ必要無イ」
「そうかもしれねえけど、そういう事じゃあねえんだよなあコレが」
分かってないなと言わんばかりに相棒の言葉を否定する。
彼らは戦いに来ているのだ。それならばもっと気概を見せてくれてもいいではないか。
自ら仕掛けてくるのであれば、全力で喉元を狙いに来てほしい。それで初めて、ヨギ自身も本気で相手しなければと思えるようになる。
ヨギが求めているのはそういう物なのだ。
空を行かず、わざわざ徒歩で行動しているのだって誰かしらと遭遇する事が狙いだ。これが叶わなければただの徒労でしかない。
それだけは勘弁願いたいものである。
暫く森の中を進み、どちらに進もうかと立ち止まったヨギは目を閉じて耳を澄ませる。
木の葉が揺れる音に混じり、何処かで争うような音が聞こえた。
先程までの不安は杞憂だったらしい。込み上げる興味と期待のまま、音のする方向へと向かい始めた。
音が近くなるにつれ、辺りの木々には刃物で切りつけたような跡がいくつか刻まれていた。それと同じように木々に絡んでいる細い、蜘蛛の糸。
誰が戦っているのかを理解し、そのまま木々を辿っていくと人影が見えてきた。
予想通り、そこにはシュカが居た。そして対峙しているのは黒髪の男と緑髪の女――トージョウの者で間違いないだろう。
気配を殺してジッと観察し、状況の把握から始める。
シュカが糸で翻弄し、それを男が応対。そしてその後ろからトージョウの女が彼をサポートするように立ち回る――
少々押されているようにも見えるのはやはり人数の差かあるいは実力の差か。
彼らの立ち回りを見るに、道中で出会った者たちよりはずっと上手である事は見て取れた。彼らならきっと楽しめそうだ。
「少しばかり邪魔させて貰うか。 なあ?」
すぐ後ろで控えていた相棒にそっと目で指示を送る。呆れの溜息を一つ吐いた相棒は、赤い羽根を大きく羽ばたかせて風を巻き起こした。
簡単に避けられる程度の、しかし目の前の戦闘に集中している相手の意表を突くには
充分な程度に調整してくれた相棒の察しの良さに感嘆しながら、その風と共に三人の中心へと飛び込んでいく。
「おうシュカ。楽しそうな事やってんなー」
「あ、ヨギ!」
さも偶然鉢合わせたかのような口ぶりで先ずシュカに話しかける。
顔見知りの姿を見た彼女は表情をパッと明るくさせ、ピョコピョコと近寄ってきた。
それと対照的に、突然姿を現したヨギを見たトージョウの二人は、動きを警戒するようにそれぞれの武器を構え直していた。
青年の横にいるオンバットも、ヨギと共に現れたシッカーに対して警戒の様相を示している。
「こいつらと遊んでんのか?」
「遊んでない!シュカ、たたかってるのー!」
まるで戦闘など起きていないような呑気さで、彼女の頭にぽふっ、と手を置きながら尋ねる。
遊びではなく、グラードン達の言っていたような手合わせをしているのだと言葉が返ってくる。真面目で何よりだ。
ハッハッハ、と笑いながらもう二、三度ぽふぽふと叩くと二人組の方へと向き直った。
「ようお二人さん──」
既に臨戦態勢が整い、此方側の出方を伺う二人に隙は見えない。
近くに立っていても、やはり先程までの雑魚などよりも楽しませてくれそうな気迫なのがよく分かる。
期待で胸が踊り、ニィっとした笑みが隠せなかった。
「折角だから、俺も混ぜてくれや」
・ā-pat:不意に現れる
・ぼくのかんがえたバトル乱入シーンです。
・この後楽しくバトルしました。多分。
◎お借りしました:シュカさん(@ヒスイさん)、狐鉄さん(@のぞみさん)、菊理さん(@羊さん)