あんころもち

【 prākāra 】



自ら開けた大穴から上階へと移動したヨギは今、長い回廊を走っていた。
「侵入者を発見!侵入者を発見!確保せよ!」
厳密に言えば走って逃げていた。その後ろでは本部の警備ロボットが数体、彼の背を追い駆けていた。
お望みとあらば鉄屑にしてやりたい所ではあったが、いくらヨギでも多勢に無勢という言葉は知っている。
「確保なんてされてやんねーし!お前らほんっとに覚えておけよな!!」
バーカ、バーカと子供のような台詞を吐きながら全速力で逃げるも、相手は警備ロボット。
そんな挑発に乗る筈もなく、機体は駆動音を響かせながらヨギを追い続けている。
「隔壁を下ろせ!」「システム、作動します!」「これで袋の鼠だ!」
「俺ぁネズミじゃなくて鬼だっつうの、て危ねっ!!」
機体達が互いに指示を出し合うと、真上から壁がシュンッと音を立てて下りてくる。
間一髪で踏み止まり、事無きを得た。しかし前後に壁を下ろされた事で彼らの狙い通り、本当に袋の鼠ならぬ袋の鬼と化してしまった。
「マジで壁しかなくなったじゃねえか…」
ゴンゴンと軽く叩いてみるが、これまで壊してきた壁よりは厚みがあるらしく少し殴った程度では壊せそうになかった。
――勿論壊せない訳ではないのだが。
前後は厚い壁、この階に来た時と同じように天井に穴を開けられそうな物資は無いし床を開けても階下に戻っては意味がない。
ならば左右に眼を向けるしかない。
先程と同じく叩いてみると、右側の壁は特別厚く出来てはいない、ごく一般的な壁のようだ。
それを確認するとヨギは一歩下がったところで膝を少し曲げ、拳を握って深く息を吸う。全身の力を集中させ、ただ壁の一点を見つめる。
「道を塞ぎゃ逃げられないってか?んなのホウエンでも同じ事言えんのかって、な!」
気合を込めた拳の一撃が壁に打ち込まれると、目の前の壁は大きな音を立てて崩れていく。
壁の崩壊と共に、濛々と舞い上がった埃が収まるとその向こうに居たのは一人の少女だった。
「あ?シュカじゃねえか。こんな所で何してんだお前」
「ヨ、ヨギィィ!!」
うわあと叫びながら飛び付いてきた少女はヨギと同じくホウエンから来たシュカだった。
「アイツ新入りかと思ったら新入りじゃなかったぞ!!」
「…アイツって誰だよ」
長い事この部屋に入れられていたらしく、不安と安堵と悔しさで興奮している彼女をまあまあと落ち着かせながら、これまでの経緯を聞き出した。
敵と戦っている内にミーティアと逸れてしまい、探し歩いている最中に遭遇した新入りらしき男もまた敵だったらしく、
上手い事この部屋にまで誘導されて閉じ込められたらしい。
「シュカはミーを探してたのに、アイツーー!!」
「まあ取り敢えずこの部屋から出るとこから始めようぜ、嬢ちゃん」
思い出すだけで悔しさが込み上げてくるのか足をバタつかせながら興奮し始めた彼女の頭をポンポンと撫でると、ヨギは部屋の扉へと近付く。
案の定しっかりと閉じられている扉を開けるための術は唯一だ。
「そら、よっ!」
先程と同じく気合の籠った拳を扉に叩き込むと、くの字に曲がった扉は真っ直ぐ吹き飛び、出口が完成した。
後ろではシュカの感嘆の声が上がった。
「おや、何の騒ぎですか?」
扉のあった場所からヒョコリと顔を出してきたのはユユイだった。
「騒いでるっつうか逃げ道作ってたってとこだな」
「ユユイー!ミー見つかった!?」
ヨギの答えに成程、と合点のついたユユイに、シュカが探している仲間の所在を尋ねた。
「いえ、残念ながらまだ…」
ユユイの答えを聞くと、そうかぁ、とシュンとした表情を見せた。
「大丈夫ですよ。引き続き探しましょう」
「つうか、一旦ここから離れた方が良いかもな。また追い掛け回されそうだし」
折角逃げられたのに追い掛け回されては堪ったものではないと提案すれば、二人の同意を得られた。
話し合いの結果、ひとまずはユユイが来た道を辿って出る事、そして先頭にユユイ、シュカ、そして殿をヨギが務める形で進む事っが決まった。
「それでは行きましょうか」
縦一列に並んだ三人は長い回廊を歩き始めた。
い浮かべながら、ヨギも彼らの後ろを追うように進んでいく。

・prākāra::壁
・壁も天井も邪魔だったら穴開ける。
・鬼ごっこしてたらシュカちゃん救出できましたヤッター!

◎お借りしました:シュカちゃん(@ヒスイさん)、ユユイさん(@海里さん)