あんころもち

【 uccal 】



二神との手合わせが終わって宴も解散となり、ホウエンの土地はシンと静まり返っていた。
多くの者が眠りに付いているだろう夜更けに、ヨギは送り火山の岩場で坐位を組み霊視を行っていた。
(何だこれは…)
ヨギが毎夜視る魂たちは清流を緩やかに下る木の葉のように揺らぎながら流れていき、それは新たな居場所を目指して方々へと散っていく。
ところが今夜は様子がおかしい。流れ行く魂の数が多すぎるのだ。
(魂の流れが乱れている――?)
生き物だけでなく、炎や花に宿る精霊たちの霊魂やその欠片に溢れているその流れは、もはや濁流と化していた。
(これウチんとこだけじゃねえな…?大規模な狩りか山火事?いや、これは――)
「ヨギ、ドウシタ?」
いつもよりも早くに霊視を止め、スウッと目を開けたヨギにシッカーが話し掛ける。
「俺はどうもしてねえよ。ただ、どっか他所で戦があったらしい」
「戦?魂タチガ流レテイルノ?」
「流れてるなんてもんじゃねえ。ありゃ氾濫寸前だ」
魂の大多数は北の方から流れ来た事は分かった。トージョウかシンオウ、或いは両方か――。
とは言え魂の流れは視る事のみに留め、決して妨げてはならないのが師の教え。下手に手を出そうモノならば逆に此方が引き摺られてしまう。
ガリガリと頭を掻きながら考えるも、実際に戦火が起きたとしてあくまで他所の土地の話であってこの国に関係した事ではない。
「うっし、寝るぞ」
こんな夜更けに考えていても仕方ない。ならば今日はさっさと寝てしまおう。迷った時は睡眠に限るというのはお決まりだ。

それから暫くしたある日、ヨギは瞑想のヨガを行っていた。
人前では締まりの無い言動ばかりを見せるが、修行を欠かした事は一度も無い。
「ヴオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」
近くに居ない筈なのに、群れた鳥の羽ばたきと共に大きく響き渡るその雄叫びはンチュの声。
ビリビリと揺れる空気に普段とは違う、異様な気配を感じた。
何の騒ぎだ、と瞑想を止めて声が響いたその方角を見ていると何処かに行っていたシッカーが戻ってきた。
「ヨギ、カイオーガ達カラ召集ガ掛カッタ」

シッカーが聞いてきた話を要約すると、トージョウの何某とかいう者の協力者としてI.S.Hの本拠地があるライモンシティなる所に殴り込みに行けと言う事らしい。
ふーん、と鼻を鳴らしながらシッカーの話を反芻する。
他国を好まないグラードンにしては珍しい判断を下した気もするが、反対意見は浮かばない。
あまり出向いた事のない土地にも、血を持たず鉄の身体を持った生き物にも興味があるし、そこで暴れられる事が出来れば万々歳だ。
思うが早いか、立ち上がると寝床に行き、布団代わりに敷いていたマントを羽織る。頼むぜと声を掛ければ相棒は地と平行の姿勢を取って乗りやすい体勢を取った。
空を見れば大きな竜――恐らくはナムロスだろう飛影が、下を見ればンチュやスーディナ達が海を泳いで渡っていく姿が見える。
遅れを取っては美味しい所を持っていかれてしまう。相棒の背に乗ったヨギは相棒に離陸の指示を出す。
「んじゃ、俺たちも行くとすっか」

他国へ向かう程の長距離飛行は久々であった。
羽織ったマントを羽ばたかせ、上空の冷たい空気を割きながら進んでいると、視線の先に電族のメヒタカと共に暮らすココペリが見えた。
「Vン\N・B?\レ?」
並走するように隣に寄り、彼らの言葉で目的地は同じイッシュなのかと声を掛ける。
他国へ行くのは初めてなのか或いは滅多に無い機会なのか、二人揃ってワクワクとした雰囲気を纏っていた。
「ヨK・ラテ絎・!」
「N曚・Ci)ヨK・ラテ絎・!」
「ん…?」
交互に喋る二人の言葉の中に、ヨギが把握している情報とは異なる単語が混ざっていた。
「ヨK・ラテ絎・? ρー…XR゙eЕ iヲ゚ゥb゙!」
その後も軽く二、三言話すと二人は先に行くと羽ばたいてスピードを上げ、ビュンと飛び去って行った。
「ヨギ、二人ハ何テ?」
「慰安旅行楽しみだって」
会話の内容が分からなかったシッカーの質問に答えると、ヨギの下でエッ、と驚く声が上がった。
あの召集の内容で、誰に一体どんな情報伝達をされたのかと困惑するシッカーとは真逆に、ヨギには心当たりがある。
(慰安旅行なんて単語出しそうなのは……まあ、アイツだろうなあ)
あの緑の顔を思い浮かべながら、ヨギも彼らの後ろを追うように進んでいく。

・uccal:出発
・1回戦アフター兼2回戦ログインです。
・観光気分で遊びに行きます。

◎お借りしました:メヒタカちゃん(@クロニコさん)、ココペリさん(@あまみやさん)
◎目撃させて頂きました:ンチュさん(@chunさん)、スーディナさん(@黒宮さん)、ナムロスさん(@kaineさん)
◎思い浮かべました:アミィさん(@kiruさん)