あんころもち

【 蛙は空の高さを知っている 】



1月19日、クガイ某所


親族達を載せたワゴン車が火葬場へ向かうためにゆっくりと走り出した。シートに凭れ、窓の外を眺めながらつくづく広い街だと感心する。
だが、今の自分にとっては広くなければ困る。ゲームの犠牲者を弔う最中で街の外に連れ出されて、なんて笑えない冗談だ。 着くまで一寝入りする事にした。
繋がりがあるかどうかさえ定かじゃない親族や見ず知らずの人間との会話で正直疲れていた。
正月くらいにしか着ない和服も黙して座り続けて読経を聞き流すのも別に苦ではなかった。ただこの「親族」という数の割には薄く、その癖して繋がりをやたらに強調させる、この空間に身を置く事に疲れていた。
(さっさと帰りたい……)



クガイ火葬場


火葬場に着いた。人が人の形を無くす場所。
親父が入った棺が運び込まれた時、お袋がまた泣き出した。煩い。
もう何度も見せられ聞かされ続けた、その号泣の様を見てよくもまあそこまで泣けるものだと感心した。
幼い頃であれば慰めようとする気が起きたかもしれない。いや、正しくは起こしていた気がする。
今その役目を負っているのは末弟の新であって、自分ではない。
棺が銀色の箱の前に着いた。何度か目にした事のあるその箱が人から人の形を奪う物であると知ったのはいつ頃だったであろうか。
耳に入ってくるのは啜り泣く声と決まりきった台詞を述べる葬儀屋の声。
箱の蓋が開いた。棺がゆっくりと進み出し、そして飲み込まれていった。







骨になるまで少し時間が掛かると言われ、昼飯の用意されただだっ広い部屋に案内された。
食事もそこそこに、その部屋を出た。煙草が吸いたかった。
親族の奴らに捕まるのは目に見えていたから喫煙所には行かず、適当に裏口へでも行こうと思っていた。
その途中で知らない女に声を掛けられたが、何が言いたいのかよく分からなかったので黙って見下ろしていたら怖がられた。やはりよく分からなかった。
(ビビるくらいなら話し掛けるな)
女を無視して先に進んだ。

外に出て建物の裏側へ回る。丁度良い場所を見つけた。石段に腰を掛け、煙草とライターを取り出す。
銜えて火を点け、吸ってゆっくり吐き出す。この一服が自分を落ち着かせた。
煙草をくゆらせながら、何となく耳朶に触れた。普段はピアスをしているその箇所には何もなく、不自然な凹凸があるだけだった。
そういえばピアスを開けたのはいつ頃だったろうか。そんな事を思い返しながら空を見上げる。
(空が高い……)
この場所からよく見える煙突からは煙が吐き出されていて、今焼かれているのは親父なのだろうかとぼんやり考えた。
あの夜、呼び出されて司法解剖直前の親父を見た時を思い出す。
その時見た表情、死相と言うやつだろう。それが自分には不思議に思えた。
人を庇ったとはいえ不慮の死であった筈なのに何故だと不思議で仕方なかった。
「なあ親父……アンタ、何で笑ってたんだ?」
漏れた言葉は紫煙と共に風に流された。


・父親の葬儀だってのにこの有様である。
・#これだから赤城は #でも赤城だから仕方なかった
・起承転結という名のコアは以下略