【 ペナルティ 】
轟々と炎が唸りをあげている。ギンギンと鍔迫り合いの音が聞こえる。
「クーク、援護して!サイコキネシス!」
ヤアッとハンマーを振り下ろす声、そしてキイーンという念力独特の音が鳴る。
「良いぞ!」
ウオオッと叫びながら再び剣が空を切る。それを防ぐ剣とぶつかり合い、ギィン、と一際大きい金属音が響き渡った。
(畜生、本当に時間食い過ぎた…っ!)
間合いを取りながらアーラは歯噛みした。出来る限りの隙を見せないようにしながらリーデリットの側に歩み寄っていく。
不用意に近づくのは危険だが、仲間同士が離れるのはもっと危険だ。
背後の炎と激しい打ち合いで呼吸は乱れ、全身から汗が止まらない。
目の前に立つ、圧倒的な力を持つ白に対抗するためにはどうしたらいい。この場を、この蒼炎を切り抜けるためにはどうしたらいい。
相手の様子を伺いながら、炎の向こう側にあるはずの、次の階層へと続く扉の姿を探す。
「リーデ、大丈夫か?」
「は、はい。まだいけます…!」
リーデは答えると同時に、ハンマーの柄をギュッと握り直す。その言葉とは裏腹に、彼女自身の呼吸も大分上がっていた。
一方の白ーー死神は目の前に現れた時から変わらず、汗一つかいていなく、虚な眼差しをしていた。
(そりゃ自分の出した炎で暑がるわけ無えか)
思わずハハ、と苦笑してしまう。さてどうするかーーふと目線を遠くに移すと扉が見えた。そうなれば、やはり一気に駆け抜けるしかない。
頭の中で逃げ道を描く。成功率は決して高くない。
それでもここで焼かれるか刺されるかの三択ならば、選ぶ道も進む道もただ一つだ。
「リーデ、ちょっと良いか」
「え、そんな…危険ですよ!」
横に立つ彼女の耳にそっと早口で囁く。それを聞いた彼女は驚いた表情をし、首を振った。
「やってくれ。これはお前にしか出来ない」
「--分かりました」
真っ直ぐに彼女を見据えて告げる。また少し躊躇いを見せるが、すぐに覚悟を決めた表情へと変わった。
「よし、行くぞ!」
掛け声と共に一気に踏み込む。案の定防がれたが、それは想定内の事。
「今だ!」
「はい!」
アーラの声と共に、リーデリットの足や杖の魔石達が光り、杖の先の魔石から光の玉が発射された。
アーラと鍔迫り合いをしていた中での不意をついた攻撃は命中した。
「……!」
体勢を崩したのを見逃さず、そのまま一気に炎の輪の端にまで押し進める。
「行け!リーデ!」
合図と共にリーデリットとクークは一気に炎の中を潜り抜けた。それを見届け、自分も後に続こうとしたその時だった。
「――っ! 」
(嘘だろっ…!!)
何も死神と遭遇している時にまで発作を起こさなくてもいいだろう。何処までも己のタイミングの悪さを恨んだ。
発作の激痛で明らかに勢いは萎えていく一方で、死神はとっくに体勢を立て直しておりあっと言う間に形勢は元通りになってしまっていた。
冷や汗と脂汗が止まらない。乱れた呼吸は更に乱れていく。意識を持って行かれそうになるのを必死に堪え、地に足をつけ剣を振るった。
「アーラさん!」
(何で、戻ってきてんだよ…)
先程と同じ光玉の発射と同時に、炎の中に、恐らくアーラを援護するためだろうリーデリットが戻ってきた。
同じ手は食わないと言わんばかりにその光を剣から放つ炎で防いだ死神が、リーデリットへと切り込んでいく。
その速さに逃げるタイミングを失う彼女の元の眼前へと辿り着いていた。
「させ、るかよぉ!!」
―― 死神の剣はリーデリットに当たらなかった。その代わりに、燃えるような熱さと身を貫く痛みがアーラを襲った。
体内から込み上げた物をゴホッと吐き出せばそれは赤い血。恐らく急所に入ったのだろう。所謂、致命傷というやつか。
背後で小さく、震える声が自分の名前を呼ぶのが聞こえる。だが、振り返られるだけの余力は残っていないようだった。
「っ、は……はずれ、たな…ばぁか」
絞り出した言葉は負け惜しみでしかなく、倒れるのが自分であったとしても、それでも狙いには当てさせなかったのだからこの瞬間は自分の勝ちだ。
出せる限りの力を振り絞り、自らの身体に突き刺さった剣を引き抜いた。すると、自分の体内に流れていた物が出ていく速度が速まるような感覚を覚えた。
「ざまぁ、みやがれ…ってんだ……」
引き抜いた剣を死神とは反対の方向へと投げ捨てる。どんな手段であっても、彼女が逃げる隙を作りたかった。
投げた距離が大したものでなかったとしても、それでも少しでも距離が取る事が出来るならばそれでよかった。
死神が離れていく瞬間を見届けたところで、アーラの目の前は真っ暗になった。
(逃げろ--リーデリット)
・アーラは たおれた!▼
・進捗!フラグ折れませんでした!
◎リーデリットちゃん(@トモさん)お借りしました。