【 使い道 】
アーラたちは幾つもの階層を抜け、恐らく中間以降のどこかにいた。そして此処でも戦っていた。
「これで、終わりだ!!」
敵の攻撃を掻い潜り、一声と共に急所目掛けて剣を振り下ろす。
狙い通りの箇所に当たると敵はよろめき、今際の際にモゴモゴと何かを呟きながらそのまま倒れていった。
ダンジョン内だから止むを得ないとはいえ流石に連戦はきつく、この戦いにも少し時間が掛かってしまった。
倒した敵が消えていくのと同時に、他に動く物が無いかの気配を探るも、どうやらここにはもう何も出てこないらしい。
「アーラさん」
乱れた呼吸を整えるために、ふう、と一息吐いたところで後ろから呼ばれた。
振り返るとリーデリットがアーラの眼帯を手に寄ってきていた。どうやらさっき落としていたらしい。
「悪いな、ありがとうーーどうした?」
彼女から受け取ろうと手を差し出そうとすると、リーデリットの表情は何か言いたそうで言えない、そんな色をしていた。
「あの、アーラさん…やっぱり、アレは使わないですか?」
アレ、とは彼女と合流した時に倒した敵が落としたアイテムの事だろう。
どんな傷でも治せるらしいその欠片を手に入れた時、彼女はアーラに使うように言った。だが、彼は首を横に振った。
そして今一度、彼女はアーラに同じく問い掛けた。
「リーデ、これは使えないよ」
この右目は自身の恐怖を、躊躇いを、迷いを断ち切るという覚悟を示す物だから。
「それに、俺よりも使うべき相手は他に居るだろ?」
彼女の両肩に手を置き、言い聞かせるような口調で続けた。
「ちゃんと持ち帰って、お前の兄さんに使おう。な?」
そう言うとリーデリットは小さくコクリと頷いた。
「ん、素直でよろしい」
そう言いながら彼女の頭を一撫でする。
彼女の年を考えれば本来なら撫でる事も無いのだが、幼い頃を知っているとつい子ども扱いしてしまう。
「さて、そろそろ扉を探さないとな。時間を食い過ぎたかもしれない」
「ええ、行きましょう」
その場から背を向け、二人は次の階層へと至る扉を探すために歩き出した。
その背後を青白い焔が仄かに揺らめいている事には、まだ気付いていなかった。
・戦場でのいちゃつきはただのフラグです。
◎リーデリットちゃん(@トモさん)お借りしました。