【 落鳥 】
このダンジョンのボスにして無邪気に笑う幼児、アモル。
このダンジョンに辿り着いてから見えていた星明かりは随分と凶悪なモノであった。
「あはは!にんげんさん、もっともーっと遊ぼう!ここでずっと遊ぼう!」
アモルが操っている二体の人形に阻まれ、攻撃がアモルにまで届かずにいた。
「くっそ、何だよあの人形!全然近づけねえ!」
攻撃がなかなか決まらず、クーシェルは苛立った声を上げる。
「恐らく、あのコアが動力源ですね」
「と言う事はあれを壊せば動かなくなるって事か?」
攻撃をいなして距離を取った所でステファニアが指摘する。
アーラに魔法の知識は殆ど無いが、恐らくそうなのだろう。
コアを破壊して人形を無力化させる、もしくは人形の攻撃を掻い潜ってアモルを直接倒すか。どちらが効率的かは言わずもがなであった。
思案を纏め、三人の方を向ければ彼らも同じ事を考えていたようで互いに頷き合った。
そうとくれば行動は早いに越した事はない。
「ステファニア、援護を頼む!」
「ええ、お任せ下さい」
アーラの言葉に頷いたステファニアは早速術の発動に必要な水分を溜め始めた。
「クーシェル、俺たちも行くぞ」
「ああ、任せろ!」
飛び立ったアーラに続くように、アルケディとクーシェルも人形へと向かって行った。
攻撃を掻い潜り、アーラはママと呼ばれる人形の、アルケディがパパと呼ばれる人形の懐に入る。
「そこだ…!」
「いい加減に、止まりやがれ!」
勢いよく剣を振り下ろし、同時にコアを破壊する。
バキンッとコアが音を立てて割れると、人形たちはガクリと崩れ落ちて動かなくなった。
「あれ?パパ?ママ……?」
動かなくなった人形を見つめ、徐々にアモルの顔が歪んでいく。
「先輩…何か、嫌な予感しかしないんすけど…」
「奇遇だな…俺もだ」
アルケディの横に降り立ちながら様子を伺うが、どう考えても不穏でしかなかった。
「あ…ああ、いやだ、やだやだやだいやあああああああああああ!!!!!!」
「な、何だ!?」
「うわああああああああん!!!!!!」
嫌な予感は的中してしまった。
アモルが泣き叫ぶのと同時に放たれた攻撃魔法は当たらずとも威力の高さを充分に知らしめるものであった。
パパ、ママと泣き叫ぶその様子は親とはぐれて泣く子供と何ら変わりはないのに、可愛げのかの字も無かった。
当たってはいけないと、それだけを念頭に入れて右に左にと躱し続ける。
その時、ドクンと心臓に嫌な衝撃が走った。
平時でもなく、途中の階層でもなくよりによってボスを前にして発作が起きたのである。
(ざっけんなよ…!)
胸の痛みに飛行の体勢が乱れるが、それでも何とか持ちこたえた。ここまで来ると最早ヤケである。
何とか旋回して避け続けるも、動悸は治まらず痛みは激しくなるばかりであった。
アモルが慟哭と共に放った一閃の魔法を避けようと身体を傾ける。
「っ、あ゛…」
その途端、また一つ激しい動悸が襲ったと同時に片翼に激痛が走り、アーラの意識はそこで途切れた。
・やらねばやられる。やったら落とされた。
・発作が起きたらそのタイミングは常に最悪なもの。
◎ステファニアさん(@如月さつめさん)、クーシェルさん(@のぞみさん)、アルケディさん(@ヒスイさん)お借りしました。