あんころもち

【 見たくない物には蓋をしよう 】



頭がガンガンする。額がズキズキと痛む。膝がワナワナと震えている。
『お前は死ぬよ。誰よりも真っ先にーー』
ホログラムとかいうらしい幻影の言葉が、俺の声が頭の中で反響し続けている。
うるせえんだよ、何度も同じ事を繰り返すんじゃねえ。


「なあ、お前の羽根はあと何枚だ?」
「っ、ああああああああああ!!!!!!!!!」
言葉を遮るように、否、掻き消すように叫びながら衝動的に剣を振った。
昔の自分ながらに嫌みったらしい笑みを浮かべたまま、その幻影が血を出すでもなく消えていた事に気付くまで何度も何度も振り下ろしていた。
激しい戦闘をしたわけでもないのに心臓の鼓動が異常に早く、呼吸も乱れっぱなしである。
もう気配は無いのに両目を右に左にと動かして周囲を見回している。
(落ち着かなければ、取り乱したらこの先には進めないーー)
目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。新しい酸素を肺に入れる度に沸騰していた脳が冷めていくのを感じる。
(そうだ、落ち着くんだ。俺が取り乱してどうするんだ)
考えるのは出てからだ。そう自分に言い聞かせて無理矢理心を落ち着かせて目を開けた。
入った瞬間に作動した装置が俺を解析した結果、あの幻影が現れた。つまり他の二人にもそれぞれ幻影が現れている事になる。
このダンジョン内に入ってから幾度目かに覚えた不穏な予感。他の二人がいる方へと振り替えるとそれは的中していた。
「っ、リーデリット!」
数年前であるが対峙した記憶のある敵。その敵の手がリーデリットの首を絞めんとしていた。
「離しやがれ馬鹿野郎が」
床を蹴って文字通り相手の懐へと飛び込み、彼女の首を掴むその手を、腕ごと切り離すように剣を振るう。
すると幻影は先程と同様に、一枚のカードだけを残して消えた。
この幻影が彼女にとって何より相性が悪い事をアーラは知っている。あの敵は昔出現したダンジョンで、迷い込んでしまった幼かった彼女とその兄を襲った敵だった。
自分の時もそうであったが、この階層は随分と趣味の悪い事をしてくれたものだ。床に倒れたリーデリットを抱き起こしながらも思わず眉が潜んでしまう。
だがもう居ない敵の事を考えても仕方ない。溜息を零しながら壁に寄りかからせるようにリーデリットを下ろした。
「リーデ、リーデリット」
肩をそっと揺すりながら名前を呼びかけるが特に反応は無かった。とはいえ呼吸はある事から、気を失っているだけなのだろう。
大事には至っていない事が不幸中の幸いといったところであろうか。
安心したのもつかの間、少し離れた所でイグニスの姿が見えた。戦況はまだ分からないが、彼の表情に余裕があるようには見えなかった。
「あっちも急いだ方が良いな。クーク、ここは任せたぞ」
倒れた主人を心配そうに見つめていたクークに声を掛けると元気の良い声が返ってきた。
拾った二枚のカードをリーデの下に置き、クークの頭を良い子だ、と一撫でして背を向ける。
「もう一ふん張り、で収まりゃいいんだけどなあ」
一人ごちながら両手に剣を携えて翼を広げる。床を蹴り、もう一人の後輩の下へと向かった。

・やるきスイッチを無理矢理オン。
・実は昔会った事があるリーデちゃんとアーラなのでした。

◎リーデリットちゃん(@トモさん)お借りしました。