あんころもち

【 陽炎戦線、異状無し 】



遠くに波の音が聞こえる。恐らく海が近付いているのだろう。となれば恐らくそこに、このダンジョンのボスが居る筈である。
敵から入手したアイテムを手に、次の階層へと繋がるボロボロの扉をくぐり抜ける。
二人の目に映った風景は、周囲に鉄の乗り物がまるでバリケードのように並んでおり、その後ろには複数の殺意の籠った敵、敵、敵。
そしてその中心にこれまでに会った敵たちとは違う雰囲気を纏った男がそこにいた。
どのダンジョンにも必ず、最深部の一歩手前に出てくる強敵。今回はこの集団の指揮官らしき、彼がそうなのだろう。
「この街はよく燃えるいい街だ、お前さん達はどう思う?」
ニッと口元を歪め、口を開いた男の言葉に思わず苦笑いが浮かぶ。
ダンジョンと化していようが、ここはバレンティア国。その国を守るべき立場である自分たちを前にして、例え自分たちの事を知らずともその言葉はあまりに軽率な言葉ではない。
最も、隣に立つオレオールは黙したままジッと敵を見据えるだけであった。
炎を操る彼にとってこのダンジョンは決して心地の良いものではないのだろう。普段とは違う、刺々しさのようなものが感じられた。
「それは、現地民に向かって言う言葉じゃあねえな」
問いに答えながら片手に剣を構える。すると、こちらの動きに呼応するようにして敵の集団もそれぞれに武器を構え始める。
相手の出方を伺いながらジリジリと睨みあいを続ける中で、如何にしてこちらが優位になるよう動くか思考を巡らせる。
例えオレオールの炎による援護があったとしてみても、魔法の使えないアーラにとって遠距離からの集中砲火は何より避けたい展開である。
ならば取るべき行動はただ一つ。先手必勝で相手の陣形を崩し、一気に敵指揮官の懐にまで潜りこむ事だ。
「――オレオール、良いか?」
「――分かった。後ろは任せてくれ」
同じく剣を構えていた彼に、先程考え付いた内容を提案すると返ってきたのは頼もしい限りの返事。
「頼んだぜ。――行くぞ」
その返事を聞くと、彼の一歩前へと歩み出てタイミングを見計らう。敵は武器を構えはしているものの、まだ撃ってきてはいない。
敵の様子を伺いながら懐から取り出したのは、先程遭遇した敵から貰った手榴弾。
-- これ絶対100パー役立つんじゃね~の! --
そう言って差し出してきたから受け取った、手のひらにすっぽりと収まるこんな物が、人を殺すための物でしか無い事はすぐに分かった。
だが、誰かを殺すということは誰かを生かすための物でもある。何より、敵を倒す事に躊躇いなどなかった。
侵略行為を行うのであれば応戦する。再ダンジョン化という不可解な現象を調査する。ただそれだけである。
つまりはそういう事だと思考を纏めると首や肩を軽く回して準備する。
貰った時に聞いた使い方は何ともお手軽で、教えの通りにピンを引き抜く。
「それじゃ、100パー役に立って貰うぜ!」
大きく振りかぶり、敵の集団めがけて投げつけた。

・アーラの なげつける!▼
・今回は先行調査でダンジョン入りしてました。

◎オレオールさん(@桃井さん)お借りしました。