あんころもち

【 VSあこ! 】


【1】


ブキ高、駐輪場――そこに同じ赤色を纏った生徒同士が拳を交えていた。
「おらおらぁ!避けてばっかじゃ手合わせになんないんだよ!!」
まさにサウリアといった風に威勢良く、拳に蹴りにと素早く攻撃を連発している女生徒、あこと、男子並みの長身を揺らしながら彼女の猛攻をいなす女生徒、利乃である。
駐輪場を通りかかった利乃に、暇を持て余していたあこが手合わせしたいと声を掛けたのが始まりだった。
しかし利乃は最初から避けるか牽制程度で、あこの言う通り本気を出さねば手合わせの意味が無い。それは利乃自身も分かっていたが、利乃にも狙っている事があった。

「とっとと決めてやるよぉ!」
(細身の割には威力も申し分無いし速さも申し分無い。だが――)
右ストレートを振るってきた腕を避ける事も払う事もせず、下の方から腕を伸ばして両手でガッと掴むと、彼女の勢いを殺さないままに背中を丸めるとそのまま彼女の細い身体は浮きあがった。
「踏み込みが、甘いッ!!」
吠えるように言い放ちながら利乃が仕掛けた背負い投げは彼女の背中を地面に叩きつけた。そう、この手合わせで狙っていたのは
背中と腕の痛みに小さく呻き声を上げながら顔を顰めるあこの様子を見て、つい力みすぎてしまっていたらしい事にハッとなった。
「だ、大丈夫か?」
膝を折り、仰向けになっている彼女を覗き込むと、あこは苦笑いながら身体を起こした。
「っ、つぅー。あんた、これ狙ってたわけ?」
「ああ、まあな。一撃で終わらせるのも一つの戦法だからな」
思ったよりも平気そうな様子に安心しつつ、立ち上がろうとする彼女に手を貸した。
立ち上がると、痛みを和らげるためウーン、と背筋を伸ばし終えた彼女は利乃の方に振り返ながら言葉を続けた。
「ま、そういう奴の方が手合わせのし甲斐があるってもんだし?またよろしく頼むよ」

彼女のあの戦闘スタイルは何処かの道場で学んでいたのか、はたまた我流なのか。どちらにせよ彼女の戦闘力の高さは明らかであり、恐らくはメンタル面も人並み以上なのだろう。
あこと別れた後、一人歩きながらポケットの中で彼女から受け取った、曰く手合わせ代のコインをチャラチャラと弄びながら彼女との手合わせを思い出す。
頼もしい後輩の伸びしろを体感した事実を思った利乃の表情は、立ち去る前のあこと同じ笑みを浮かべていた。


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強くて頼もしい後輩に思わずニンマリノ。




【2】


「覚悟しなぁ、ってうわぁ!」
「あこ!」
勢いよく踏み込んだは良かったが、昨日の雨でぬかるんだ地面に足を取られてあこはバランスを崩した。
助けようと腕を伸ばして掴んだは良かったが、同じように足を取られた。
せめてあこを守らねばと倒れながらも、あこの身体が上に来るように体勢を変える。
「っ、と。あこ、大丈夫か?」
ベシャッという音と共に背中がジットリと湿っているのを感じる。正直良いものではないが、 まずは後輩の心配が先である。
「あ、あんたこそ……」
「私か?まあ慣れてるからな」
珍しく心配そうな顔を浮かべる後輩に向かって、ハハと笑いながら立ち上がる。
見れば背中だけではなくジャージや脹脛等々、泥に汚れており、あこも同様に足元や腕に泥がついていた。
「泥、これで拭いておいた方が良さそうだな」
そういって置いておいたカバンからタオルを取り出してあこに差し出すと、
自分はどうするのだとあこが聞いてきた。
「私は予備のタオルがあるからそっちを取りにいくよ」
「あ、ありがとう」
ホラ、と受け取るように促すとソッと受け取り、礼を言うあこの頭を一撫ですると背を向けて別れを告げた。
タオル代わりの何かを用意しなければ、ここまで泥だらけにしてしまうと、
母親に叱られそうだと、あれこれ考えながら着替えを取りに教室へと向かった。


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泥んこ塗れの先輩はクールに去る。


・あこさん(@NPC)と勝負というかお手合わせ!