あんころもち

【 慷慨憤激! 】



登校日ということもあり、山吹高校の空手部では朝練を行っていた。
「よーし、ラスト一本行くぞー!!!」
利乃が部員に向かって声を上げた所で、天井のスピーカーが震え、聞き覚えのある気だるげな声が聞こえてきた。
『あー、あー、聞こえてるかァ?』
チーム・ツェクン参謀のクンの放送内容は耳を疑うものでしかなかった。
人質となった花岡、フロッグズの解散、ギャング協定、そしてそれに同意したという草彅。
どれもこれも、利乃にとっては理解も納得も賛同も何も出来ない内容であった。
「先輩、今の放送って……」
放送を終えたスピーカーを、顔を顰めながら見上げていると後ろから声を掛けてきたのは、利乃や他の部員と同様に怪訝な表情を浮かべた冥々だった。
「ああ……」
冥々の言葉に生返事を返しながら尚も頭の中でグルグルと思案を巡らせる内、思案は徐々に怒りへと変わっていった。
ツェクン兄妹のやる事なす事、何事も派手ではあったが今回はそれの極みである。人質をとってチームの解散を迫るなど卑怯以外の何者でも無かった。フロッグズの事を誰よりも大切に思ってきた花岡の事を一番傍で見てきた草彅。
その草彅が解散を同意するという事はフロッグズを、花岡を捨てると同義では無いのか。考えれば考えるだけ、その事に対する怒りがこみ上げてくる。
『カエル共は指くわえて待ってろよ。じゃあなァ』
クンの言葉を頭の中で再生させる。言われたままに大人しくしているだけのフロッグズでは無いのは利乃もこの3年間でよく理解していた。
そして、そのフロッグズの危機に黙っているサウリアでも無ければ、この卑屈卑劣卑怯の極みを感化できる利乃でも無かった。
そうとなればやる事は一つである。
「――お前たちも放送聞いてたな!?今日の朝練はここまでにするぞ!」
動揺を見せる部員たちに向かって大声で終了の号令を掛けると近くにいた部員に最後の施錠などの指示を出す。
「冥々、お前も生徒会室に向かった方が良い。多分副会長達が召集掛けるだろうしな」
「分かりました。……先輩」
着ていた胴着を脱いで軽く衣服を整えながら、先程は生返事で終わらせてしまった冥々に向き合って声を掛ける。恐らく生徒会は事体の収拾に動き回るだろうからそれを考慮すれば早めに向かった方が良いだろう。
利乃の言葉に同意しつつも、何か言いたそうにする彼女に目線を合わせる。
「ん?」
「無茶しないで下さいね?」
真面目な表情で告げた彼女の言葉が心にジンときた。そのお陰で煮え滾っていた腸が少し落ち着いたようにも思えた。
「ああ、任せろ!」
頭をポンポンと撫でるとクルリと背を向け、そのまま空手部を後にした。
利乃のその目は笑っていなかった。

・進撃開始です。

お借りしました:冥々ちゃん(@緋連こあさん)