あんころもち

【 八つ当たり! 】


福音と別れ、二階へ降り立つとあちこちが騒がしかった。赤と青だけでなく、他のチームも抗争を始めているようだ。
だが今の利乃にそれを気にするだけの余裕はなかった。
まずは休息を取って体勢を整える。それも勝負に勝つためには必要な事だ。
そう思い、階段を降りるとそこは入口は無く、代わりに別の書籍が収まった本棚があった。
どうやらボウっと歩いていたのがいけなかったらしく道を間違えたようである。しかもここは今まさに赤と青の宿敵同士が入り乱れる資料室。
「おい、あいつサウリアの金城じゃねえか?」
「うっわ本当だ」
「九十九さん!サウリアの金城です!」
一度引き返そうと背を向けると後ろで名前を呼ばれた。振り返るとと九十九と恐らく学年違いのアジューテの男子生徒が五名。
「何か用か?」
自身よりも背丈の低い彼らを見下ろしつつ用件を聞くも、特に用事があるわけでもないような言葉しか帰って来なかった。
「うっわ本当だ。つうか何その顔、何人か潰して来たって顔してるけど」
仲間に呼ばれた九十九が寄ってくると、目の焦点が合っていない、いつもとは全く違う利乃の様相を見るなりせせら笑った。
「大人しく勉強していただけだが?」
「へえ、脳筋のサウリアが勉強ねえ。似合わない事してるじゃん」
「超ウケるんだけど。大人しく脳味噌でも鍛えてろよ!」
正直に答えると、アジューテがケラケラと笑い出した。どうやら完全に馬鹿にされているらしい。実際に賢くはないのだが。
利乃の頭の中にその嘲笑がガンガンと響き渡り、何かが佛々と込み上げてくるのを感じていた。
「まあ何だって良いけどさあ、俺たちとしてはさっさとお宅らをかたづけちゃいたいワケよ」
「……」
彼の言葉を黙って聞いていると、同じようにへらへらとした笑みを浮かべた別の生徒が挑発するように肩をドンっと思いきり突いてくる。
その時、頭の中でブチッと何もが切れた音が聞こえた気がした。
先に手を出して来たという事はつまりそういう事なのだという結論が脳内を駆け巡り、その結論一色に染まった。
「おい、お前聞いてんのか……」
黙りをきめこんでいたその態度が気に食わなかったらしい生徒が先と同じように突いてこようと腕を伸ばしたがそれは叶わなかった。
その伸ばした腕ごと壁に吹き飛ばされ、叩きつけられていたからだ。
「てめえ、やりやがったな!」
利乃の反撃にいきり立ち、拳を握って突っ込んできた生徒の腕を掴むとその勢いのままに背負い投げて床に叩きつける。
「……」
「てめえ、よくも!」
「待て、何か言ってる」
利乃の様子を見て仕返ししようとした後輩を止めた九十九は耳を澄ませると、目の焦点が合わないままに利乃はボソボソと呟いていた。
「隙有りだあ!」
「おい、バカ!」
九十九の制止を聞かずに飛び込んできた下級生の頭を鷲掴み、動きを止める。
「--何人潰してきたか、と言ったな」
鷲掴んでいた頭を離すと鳩尾に正拳突きを見舞って大人しくさせる。
「お前を含めればあと四人は倒した事になるよな?九十九」
焦点の合っていなかった利乃の目は今、九十九ただ一人を見据えていた。

・九十九さん(@NPC)と愉快な下級生たちを相手にストレス発散タイムの始まり。
まごうことなき八つ当たり。