あんころもち

【 目標! 】


六月某日、利乃は頭を抱えていた。
今のブキ高は前回の戦争ムードから一転、学生らしくテストを目前に勉強ムード一色であった。
三年においては受験の事もあり、ピリピリとした雰囲気を持った生徒も中にはいた。
同じく三年である利乃はテスト期間中も普段と同様に、なるようになるという構えでいるのだが今回のテストはそうもいかなくなった。


遡る事数時間前、それは母親との会話から始まった。
「んあー負けたー!! 」
「今日は何してたの?」
悔しそうな声を上げながらリビングへ入ると、足の短いテーブルに頬杖をつきながら雑誌を読んでいた母が顔を上げずに声を掛けてきた。
「博さんと腹筋30秒勝負。後半で追い上げられちゃってさー」
たったの5回差だよー、と言いながら冷蔵庫に入っているモーモーミルクを取り出すと、それをコップに注いだ。
「あらー、惜しかったわねー」
気の無い相槌を打つ母の様子に何か違和感に気づく。こういう時の母は大抵何かを言い出す時だ。
何かと勘ぐりながら口に含んだミルクをゴクリと飲み込んだところで、母が雑誌から顔を上げた。
「利乃、もうすぐテストなんじゃないの? 」
「へ?」
嫌な予感はしていたが、予想以上に大きな爆弾を投下してきた。
利乃自身が昨日テストの存在に気付いたというのに何故母が知っているのか。
「へ、じゃないわよ。今日買い物行った時、ほら、同級生の……」
娘の上げた素っ頓狂な声にため息を吐いた母の話を要約すると、同級生の母親と偶然遭遇した際の世間話で知られたらしい。
「進学するにしたってスポーツ推薦だろうから特に口出してないけど、アンタだって一応受験生なのよ?少しは勉強したって良いんじゃない?」
御尤もな話である。ぐうの音も出ない利乃は思わず母の前に正座し、ただ黙って話を聞いていた。
「――そこで母さんは考えました」
パンと両手を合わせてニコニコとしたその笑顔が次に発しようとしている言葉が予想出来ず、それが何よりも恐ろしい。
コップをグッと握り締め、母の言葉を待つ。
「今回のテストで赤点一教科につき、一週間トレーニングルーム使用禁止ね」
その言葉に、利乃の目の前は真っ白になった。


そして、間近に迫りくる現実に頭を抱えている現在に至る。
するとポケットに入れていた携帯のバイブが震えた。確認してみると参謀の赤妻から、図書館に来るようにとのメールだった。
図書館といえば対立するアジューテの縄張り。
そこに招集をかけるとは一体どういう事なのかと思考を巡らせるが考えても仕方ないと立ち上がり、図書館へ向かう。
同じように召集をかけられ、何事かと集まってきたサウリアの生徒たちを前に、
相変わらず冷静な表情を浮かべている赤妻は真一文字に結んでいた口を開いた。
「貴様らの馬鹿さを嘆き、これより勉強会を開催する。根絶丁寧に教えてやるから意地でも頭に叩き込め」
「……それだぁ!!!!!! 」
利乃の声が図書館に響き渡った。

・この後赤妻さん(@NPC)に煩いと怒られました。多分。 ・赤点回避に必死。