【 指きり! 】
保健室を出た後、利乃は廊下を歩いていた。
「あ~利乃ちゃん!」
後ろからよく知っている声が聞こえたとの同時に背中にズッと人の重みがのしかかった。
首だけ振り返ると同じ学年の二風谷愛結晶が抱きついており、その顔は柔らかそうな頬を少し膨らませていた。
「利乃ちゃん酷い~~!!なんでじゅえもお茶会に誘ってくれなかったの~~!!」
「へ?」
自分に気付いたことが分かった愛結晶の第一声は予想外なもので、思わず気の抜けた声が出た。
「じゅえも翠ちゃんのおやつ食べたかったのに~~~!!罰として、ぎゅ~~~だから逃げられないよ~~!!」
「あ、ああ……」
フロッグズの総長、翠の用意した菓子を食べたかったと言う彼女の訴えに、そういえば彼女も甘いものが好きだった事を思い出す。
そんな事を言われてもツェクンに所属している愛結晶を誘う事は茶会の主催であるフロッグズの意に反する事であり、
それは利乃がサウリアに所属している以上どうする事も出来ない事である。
とはいえ、彼女の性格を考慮すれば特に茶会を荒らすような事はしないだろう。
それに今こうやって抱き締めて利乃の動きを制しているのも別に妨害の意があるわけでは無さそうだ。
そうなれば乱暴に振り解く事も出来ない。
(参ったなあ――あ、そうだ)
さてどうしたものかと一思案したところで一つの案が閃いた。
「じゃあこうしよう!まずコレな」
「なあに~?」
ポケットの中からある物を取り出すと、首を傾げる愛結晶に差し出す。
それは先に折羽に渡した金平糖の入った小袋だった。
「この前、お前も気に入りそうなデザートバイキングの店を見つけたんだ」
利乃から体を離し、うんうんと相槌を打ちながら愛結晶が差し出された小袋を受け取ると言葉を続けた。
「今度私がそこに案内する。だからとりあえず今はこれで見逃してくれ。頼む!」
最後は両手を合わせて裏も表もなくただ真っ正直に言葉をぶつけて真剣な表情で頼み込んだ。
「う~ん。利乃ちゃんがそこまで言うんだったら~、良いよ~!」
「本当か!?」
一瞬どうしようか迷った風ではあったが、愛結晶は承諾してくれた。その言葉に利乃の表情もパッと明るくなる。
「うん!だから指きりしよ~!」
にこにこと笑う愛結晶は小指を立てた右手を差し出した。それに応じて、利乃も同じように小指を立ててそれを絡ませた。
「ゆーびきーりげーんまん、嘘ついたら針千本飲ーます!」
「指切った~!!」
声を合わせて指きりの歌を歌い終わると、絡めた小指を解いた。
「有難う愛結晶!本当に助かった!」
礼もそこそこに、後日の事はまた落ち着いた頃にでも決めようと利乃は愛結晶と分かれる事にした。
「うん!利乃ちゃん、まったね~~!」
愛結晶の見送りを受けて、利乃は二号館の入り口へと駆け出した。
・この後めちゃくちゃ食べまくりました。(きっと)
お借りしました:愛結晶ちゃん(@asayaさん)