あんころもち

【 走れ! 】



絡んできた何人かのツェクン派を打ちのめしながら利乃が中庭に辿り着くと、その様子はまさにやりたい放題と言った状態であった。
教室棟の方に顔を上げると窓から銃口が覗いている所から察するに、
この現状を生み出した、少なくとも七割は締めているだろう原因は彼処に居るのだろう。相変わらず拡声器を使ってやいのやいのと叫んでいる。
「少しやりすぎじゃないか?」
思わず本音が漏れたのも束の間、銃撃から逃げ回ってる女生徒の叫び声に気付く。
「こっちだ!早く!」
恐らくフロッグズなのだろう彼女の手を引き、目に入った図書館へと駆け足で連れていく。
狙い撃ちされたのが相当恐怖だったらしく、目からポロポロと涙を流していた。
「ここにいれば弾は来ないだろうから、とりあえずここに避難しててくれ。な?」
指の腹で涙を拭いながら言い聞かせると彼女は礼を言い残して図書館の中に入っていった。
少しという言葉は取り消した方が良さそうだ。素直にそう思った。
高い所から、それも戦闘意欲の無い者を狙い撃ちにする行為が気に入らなかった。
冷静になるためにフウと一息吐いたところで中庭の方へ目を向けると思わずギョッとした。
銃声の鳴り響く、その真っ只中に一人の女生徒が逃げるでもなく佇んでいた。
日常と何ら変わらないかのように極々自然なその様子は明らかにその場から浮いていた。
(な、何やってるんだアイツは!)
何処の所属だろうと危険な事には変わらない。そもそも、当たったら当たったで済まそうとするような思考の持ち主が首謀者だ。
すぐにでも避難させないとまずい、瞬時にそう思った。図書館の入口からダッと駆け出し、その女生徒の元に向かった。
「おいルーナちゃんにあてんなよ!」
窓の方から羽生音の声が聞こえてきた。だったらまず手にしている銃を下ろすべきだと思った。
「おい、そこは危ないぞ!?」
「え?」
走りながら声を掛けたその時、一発の弾が彼女の頭に直撃した。
上からヤバイだの当たっちゃっただのと声が聞こえるが、それを無視して女生徒の元に駆け寄る。
「お、おい!大丈夫か!?」
彼女の柔らかい髪の毛を掻き分け、直撃したであろう箇所を見ると赤くなっていた。
「――よし、行くぞ」
「何処に?」
素人目で見ても放っておいて良い物では無いその怪我を見ると、自分の身に何が起きたのか理解していないのか、
それとも痛覚が追いついていないのか、キョトンとした顔の彼女を彼女の髪を整えると軽々と一気に仰向けに抱えあげた。
「しっかり捕まってろよ?」
「うん」
腕の中で大人しく抱えられている彼女に声を掛けると、表情は相変わらずだが小さく返事をした彼女はぎゅっと捕まり返した。
落とさぬようにグッと抱きしめると、地を蹴り飛ばして駆け出した。
上から降ってくる鉄砲玉に当たらぬよう、掲示板などを遮蔽物にしながら2号館へ飛びこむと、そのまま真っ直ぐ保健室へと向かった。

「すまない!彼女の手当てをしてくれ!」
抱えたままにガラリと勢いよく扉を開け、中にいる保険医に声を掛けながら彼女を下ろす。
「じゃあまたな。今度は怪我する前にちゃんと逃げろよ?」
彼女の頭を軽く撫でると近づいてきた保険医に彼女を引き渡し、保健室を後にした。
廊下に出た時、不意に腕の中にいた彼女が何か一言二言、囁いていた事を思い出したが、
よく聞き取れなかった事もあり一先ず気には留めない事にした。

・ルーナちゃんをお姫様抱っこでダッシュです。
・未来予知されたようなされてないような…利乃は考える事をやめた。

お借りしました:ルーナちゃん(@陽さん)、ハブくん(@あまみやさん)